聞き手:山本晃弘(朝日新聞出版アエラスタイルマガジンWEB編集長)
デジタルでは味わえない経験や感激。
子供はいろいろなことに夢中になる
始まりは、妻の洋子が実家の一室で始めた小さなお絵描き教室だった。30数年がたち、子供から大人まで約200人の生徒数を誇る岡山で最大規模の絵画教室「アートゼミこども絵画教室」となった。
子供向けの「お絵描き教室」は、都市部を中心に保護者の間でかなり注目されてきている。私学の受験科目の中に「美術」が入るようになり、0歳から通う子もいるようだ。
「小さい頃から自分の目で世界を見るということが大事です。インターネットが発達したデジタル時代において、お子さんの発育のために何か足りないものがあるんじゃないかという問題意識を抱えている保護者の方はとても多い。好奇心、感動、感激の体験。デジタルでは味わえない経験をしたくて、アートゼミに通われるのだと思います」。
アートゼミで、子供たちは様々なことに夢中になる。ときには、動物園や近くのお寺などを訪問し写生をする。ときには、みんなで力を合わせて大きな木工作品を創り上げる。また、一点の油絵を仕上げるのに1年、2年とかける子もいる。
教室に来ると、まずは挨拶に始まり、先生の話を聞いて、他の子と一緒に絵を描いていく。子供たちは、自然と人付き合いのルールも学んでいく。
「子供は親御さんが言わなくても「やっちゃいけないこと」は自然と学んでいます。むしろ、教室では「これをやってもいいんだよ」を教えます。それが、発想力や表現力につながっていきます」。
また、アートゼミは、子供だけでなく保護者にとっての解放の場所でもある。他人との関わり方が「点」になってしまっている現代。子供がのびのびと絵を描いている様子を見た大人は、忘れかけていた心からのワクワク感が刺激される。
絵を描くことは自分の世界を創ること。
無限の可能性があることを伝えたい
高橋の原点は、学生時代に学んだ現代アートだ。絵画、彫刻、音楽、都市論など様々なジャンルのアーティストが集まる環境で、「見る」「表現する」とはどういうことかを徹底的に考えたという。
「基礎をおさえることはとても大事です。例えば人体を描く場合は、その骨格、筋肉のつき方を把握すること。動物であればライオンと猫は何が違うか、蹄の数など「分類」して捉えることも大事です。
木であれば「Y(アルファベット)」を重ねていくことで出来上がる。絵というのは、世界を認識するツールになるんですね」。
「絵を描く」というのはとても原始的な行為でもある。太古の昔から人はこの世界を見つめ、構造を理解しようとし、自分なりに表現したり、発明したりしてきた。本来、人間はそうしたことにいちばんの喜びを感じるのではないだろうか。
成果を追い求める「バスに乗り遅れるな」主義になりがちな世界。世の中にどう自分をフィットさせるかではなく、どうやって自分の世界を創っていくかということ。アートゼミは、「表現」の無限の可能性を子供たちに伝え続けている。
髙橋昌人
多摩美術大学芸術学科卒。川崎医療福祉大学 非常勤講師、倉敷ビューティカレッジ 講師 日本美術家連盟、岡山県美術家協会、日本基礎造形学会会員国内外で展覧会開催実績多数
髙橋洋子
多摩美術大学絵画科油絵専攻卒 中学校・高等学校教員(美術・工芸)免許取得。美術講師としての指導実績多数。日本美術家連盟、岡山県美術家協会会員、岡山県エッセイストクラブ会員、国内で展覧会開催実績多数
撮影:植田翔(写真事務所プリズムライン)